ポリアミド樹脂(ナイロン樹脂)とは

ポリアミド樹脂の種類・特徴などをご紹介します。

コネクタ

1.ポリアミド樹脂(ナイロン樹脂)とは

ポリアミド樹脂は、アミド結合の繰り返しによって主鎖を構成する、熱可塑性高分子材料です(図1参照)。ポリアミドは、「ナイロン」の名前でも一般的に用いられており、これはポリアミド66の合成に世界で初めて成功したデュポン社の商標がそのまま定着したことに由来しています。ポリアミドは当初、合成繊維向けに開発された材料でしたが、機械的強度や耐熱性、耐薬品性などに優れることから、射出成形用材料として自動車や工業部品、家庭電化製品向けなど幅広い用途に広がっていきました。

ポリアミドは様々な種類のラクタム、ジアミン、ジカルボン酸といったモノマーを用いることで、多種多様な分子骨格を作ることができます。今回は、結晶性の汎用エンジニアリングプラスチックとして多く使われているポリアミド6(PA6, ナイロン6)とポリアミド66(PA66、ナイロン66)を中心に取り上げます。

By selecting various types of monomers, including lactams, diamines, and dicarboxylic acids, polyamides can be made with a wide variety of molecular backbones. Here we will focus primarily on two crystalline polyamide resins that are widely used as general-purpose engineering plastics: polyamide 6 (PA6 or nylon 6) and polyamide 66 (PA66 or nylon 66).​

図1 アミド結合図1 アミド結合

2.ポリアミド(ナイロン)の種類と呼称

ポリアミドの製造方法には、図2-1に示すようにカルボン酸アミンを原料とする方法と、ジカルボン酸とジアミンを使用する方法の2種類があります。前者をn型、後者をm,n型と言います。

例えばポリアミド6はn型で、カルボン酸アミンを縮合環化させたカプロラクタムを原料とし、開環重合により合成しています。アミド結合間の炭素数(図2-1のR(メチレン基)とカルボニル基のCを加えた数)が6個なので「ポリアミド6」です(図2-2)。

ポリアミド66はm,n型で、炭素数6(=m)のアジピン酸と炭素数6(=n)のヘキサメチレンジアミンを原料としており、カルボン酸とアミンの脱水反応によってアミド結合が生成される縮合重合により合成されます(図2-2)。

図2-1 二種類のポリアミドの合成図2-1 二種類のポリアミドの合成

図2-2 ポリアミド6、ポリアミド66の重合図2-2 ポリアミド6、ポリアミド66の重合

3.ポリアミド樹脂(ナイロン樹脂)の特徴

(1)特徴

一般的にポリアミドには次のような優れた特性があります。

・機械的な特性が優れている
・耐摩擦摩耗性が優れている
・耐熱性が優れている
・耐有機溶剤性が優れている
・様々な物質との親和性があり染顔料、安定剤、添加剤、強化材などが配合できる
・絶縁耐力に優れている

反面、次のような使いにくさもあります。

・使用される環境の湿度によって寸法や特性が変化する
・高温で長時間水分と共存すると分子量低下による物性変化が生じやすい

→ 旭化成のポリアミド樹脂「レオナ™」の概要と特徴についてはこちら

 

(2)ポリアミドの分子鎖中アミド基の役割

a. 分子間結合の強化

図3に示すように、アミド基のN(窒素原子)に付いているH(水素原子)は近くの分子鎖のO(酸素原子)と親和性があり、水素結合を形成します。水素結合は分子鎖の相互位置を拘束し分子運動を規制することで、強度や耐熱性を向上させます(図3)。図3の黒丸、もしくは図2のRm, Rnで示した炭素(メチレン基)の数が少ないほどアミド基の割合が高くなり、水素結合の数が増えるため、機械的強度や耐熱性(ガラス転移点・融点)が向上する傾向にあります。

b. 靭性の付与

アミド基は高い親水性を有することから、ポリアミドの吸水性は他樹脂に比べて高くなる傾向にあります。ポリアミドが吸水することで水分子がアミド基間に配位し靭性が増す一方で、寸法が変化する・ガラス転移温度が下がる・剛性が下がる等の変化が生じます(図3)。そのため、ご使用の際には吸水による物性変化に留意する必要があります。

図3 ポリアミド樹脂(ナイロン樹脂)の中の水素結合と水分子の配位図3 ポリアミドの中の水素結合と水分子の配位

4.ポリアミド樹脂(ナイロン樹脂)の用途

自動車のエンジン回りの部品(図4)はポリアミドの持つ耐熱性、耐油性が最も有効に活かされた例です。高温環境下でガソリンや潤滑油、不凍液に触れていても安定です。また耐熱性が要求される吸排気系部品や、電気系統のコネクタのように電気絶縁性が求められる部品にも採用されています。

図4 自動車エンジンチェーンケース図4 自動車エンジンチェーンケース

自動車用途以外にも電気製品、耐熱性が要求される調理器具、温調機器、水回り機器などの幅広い用途に採用されています。その他、結束バンド、ファスナー等、様々な機器の信頼性向上、組立合理化にも貢献しています。

→ 旭化成のポリアミド樹脂「レオナ™」の用途についてはこちら

5.ポリアミド樹脂(ナイロン樹脂)の使用上の留意点

ポリアミドの特性を活かすには、いくつか留意しなければならないことがあります。このうち特に重要なのは成形時の水分管理と、水分の製品性能への影響です。

図5に長期保管時の寸法変化の実験例を示します。この実験は成形した平板を温度や湿度を管理していない室内に放置し、寸法の変化を2年間追ったものです。最初の半年程度は絶乾状態からの吸水などで寸法の増加が続きます。その後は季節の変動による温度、湿度の変化の影響で周期的な変化をします。

図5 ポリアミド66平板の長期保管時の寸法変化率図5 ポリアミド66平板の長期保管時の寸法変化率

6.ポリアミド樹脂(ナイロン樹脂)の種類と使い分け

ポリアミドははじめに述べたように、図3にRで示した脂肪鎖(メチレン基)の長さを変えることで、性能の異なる材料を作ることができます。上記3-2で述べたように、メチレン基の数が少ないほどアミド基の割合が高くなり、水素結合の数が増えるため、メチレンとアミド基の比率が耐熱性・強度等の物性に影響を与えます。具体的には、Rの数が短いと強度・剛性が上がり、融点も高くなります。一方でRが長くなると分子鎖が動きやすくなり、ポリアミドが吸水する原因となるアミド基の数が少なくなることから吸水率が低くなります。なお、ポリアミドの種類によってその原料も異なり、次章でも触れますが、中にはバイオマス由来の原料もあります。図6に代表的なポリアミド種類に関連する各種情報を示します。

図6 代表的なポリアミド樹脂の種類と特徴図6 代表的なポリアミド樹脂の種類と特徴

7.ポリアミド樹脂(ナイロン樹脂)のバイオマス資源利用

ポリアミドはジカルボン酸とジアミンを原料にしていますが、植物由来成分を生物的、化学的に変性して原料化することもできます。これらを利用した「バイオマス由来ポリアミド」の生産がすでに行われています。例えば、ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸から合成されるポリアミド610、アミノウンデカン酸から合成されるポリアミド11が代表例です。セバシン酸とアミノウンデカン酸は植物性油であるヒマシ油から得られます。
また、糖を原料として、微生物内の代謝経路を工業的に利用するバイオ法由来の原料の研究開発も活発化しています。

→ 旭化成、バイオマス原料由来のポリアミド66の実用化検討加速へ

コラム: 極性基

有機化合物は共有結合でできています(図7)。つまり隣同士の原子がお互いの電子を共有しあって安定化することで化合物になっています。図8左のCとCのように隣同士の原子が同じ場合、電子は原子核の真ん中あたりで運動しています。図8右のCとXのように隣同士の原子が異なると、電子を引き付ける力が違うため、電子はどちらかに偏ります。この部分のことを「極性基」と言います。

極性基には電子を引き付ける力に差があり「電子リッチ」な場合と「電子プア」な場合があります。プアな部分とリッチな部分はお互いに近づき、適当な距離を取ったときに安定になろうとします。ポリアミドではNHのHが電子リッチで、C=OのOが電子プアなのでこの部分は所定の距離を置いて安定な状態になります。その分、分子間力が高くなり材料の性能向上に寄与します。

また、無機物はイオン結合でできているものが多いため、極性基を持っているプラスチックとなじみが良いです。ポリアミドに吸水性があるのはこのためです。水以外にガラス繊維、難燃剤などの添加剤、着色料などとの親和性も高いことから、コンパウンドにより様々な機能を付与することができます。

図7 分子鎖の共有結合の例(ポリエチレン)図7 分子鎖の共有結合の例(ポリエチレン)

図8 高分子鎖内の極性図8 高分子鎖内の極性

 

(執筆:佐藤功、佐藤功技術事務所)

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PA樹脂 レオナ™

耐熱性、強度・靭性、絶縁性、耐油性に優れます。自動車部品、電機・電子部品など幅広く採用されています。