インタビュー
2022.07.01
業界コラム
2022年3月、蓄電池のサステナビリティに関する研究会(第2回)が開催された。研究会では、環境や社会問題への対応などサステナブルな蓄電池サプライチェーン構築に向けて、①ライフサイクルでの温室効果ガス(GHG)排出量の見える化、②人権・環境のデュー・デリジェンス(DD)、③リユース・リサイクルなどの制度整備が検討され、22年半ばには中間とりまとめ、制度の試行が行われる。この研究会は経済産業省(自動車課)が22年1月に立ち上げたもので、欧州委員会が20年12月に発表したバッテリー規則案への対応という面もある。
欧州バッテリー規則案は、電池の製品設計から生産、リユース・リサイクルまでライフサイクル全体を対象としており、例えば、①製造・廃棄時のGHG排出量(カーボンフットプリント:CFP)については、24年から表示が義務付けられ、27年には上限値が設けられる。また、②電池の正極材・負極材の原料であるニッケル(Ni)、コバルト(Co)、リチウム(Li)、天然黒鉛については、その採掘や取引時の人権侵害や環境破壊などのリスクを評価するプロセス(DD)が23年から義務付けられる。さらに、③電池回収が23年から、一定水準以上の資源回収が25年から、電池製造時の再生材使用が30年から、それぞれ義務付けられる。
3月の研究会では、欧州バッテリー規則案を参考に、①CFPは産業総合研究所IDEAなどのデータベースを活用して算出し、②DDは「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン」を踏まえて進める方向となっている。③リユース・リサイクルは、廃車となるEVがまだ少なく、実態解明が必要とされた。
(資料)蓄電池のサステナビリティに関する研究会(第1回)資料 https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/chikudenchi_sustainability/001.html
21年11月からは蓄電池産業戦略検討官民協議会が、経済産業省商務情報政策局が事務局となって開催されている。こちらは、日本の蓄電池産業の技術的優位や産業競争力に陰りがみられるなか、官民で再興戦略を練るものである。
50年カーボンニュートラルに向けて、自動車の電動化に伴い車載用蓄電池の需要は増加し、出力が変動する再生可能エネルギーの普及も定置用蓄電池の需要増加につながる。富士経済によれば、車載用蓄電池(駆動用)の世界市場は35年には26.4兆円と20年の8.5倍に拡大し、定置用蓄電池は3.4兆円と3.4倍になると見込まれている。一方で、世界市場では、15~20年にかけて中国と韓国がプレゼンスを高め、日本はシェアが低下していること、25年に向けて中国や欧州が生産能力を拡大するが、日本は微増にとどまることなどが、問題視されている。
(資料)蓄電池産業戦略検討官民協議会(第1回:2021.11.18)資料
(資料)中国・高工研究院: 2021全球動力電池装機量TOP15解析
官民協議会での検討は、上流資源の確保、生産基盤拡大・強化、次世代電池、人材育成・確保、需要拡大、リサイクル・リユース促進など多岐にわたるが、電池原材料である鉱物資源の確保やリサイクルによる資源回収が注目されている。
電池の正極材・負極材の原料である鉱物資源(Ni、Co、Li、天然黒鉛)については、欧州バッテリー規則案が言及する人権や環境面でのリスクに加えて、資源調達における特定国への依存が懸念されている。Li、Co、Niのいずれも製錬工程は中国のシェアが高く、黒鉛も生産や輸入は中国に大きく依存している。IEAによると40年の需要は20年比でLiは約13倍、NiやCoは約6倍になる見込みである。
(資料)蓄電池産業戦略検討官民協議会(第1回:2021.11.18)資料
(資料)蓄電池産業戦略検討官民協議会(第1回:2021.11.18)資料
米国では経済安全保障の観点から、EV用などの大容量バッテリーやレアアースなど重要鉱物は、半導体や医薬品とともに、サプライチェーン強化を図るべき4分野とされる。21年6月には「リチウム電池のための国家の青写真」が発表され、30年までの目標として、原材料鉱物のCoやNiを代替品に置き換えることや、リサイクル率90%を達成することなどが挙げられている。
日本の協議会は5月頃までの開催とされ、中間とりまとめが予定されている。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を通じた鉱物資源確保策や、リサイクルによる資源回収が戦略に盛り込まれてきそうだ。
(資料)蓄電池のサステナビリティに関する研究会(第1回、第2回)資料
蓄電池の製造プロセス
(資料)蓄電池のサステナビリティに関する研究会(第1回、第2回)資料
リサイクルプロセス
世界最大のEV大国であり、世界最大の電池生産国である中国に目を転じると、電池リサイクルへの企業参入が拡大している。日本では廃車になるEVが少ないが、中国では、廃棄される車載電池が25年には100万個、80万トンに達し、電池回収・リサイクル市場は30年までに1,000~2,000億元(約2~4兆円)規模になると見込まれている。
21年7月に発表された循環経済発展に関する第14次5ヵ年計画では、電池のリサイクルは重点テーマの一つに挙げられた。NEVメーカーと電池のリユース・リサイクル企業の連携を促進し、車載用電池のトレーサビリティ管理システムを構築する方向性が示されている。22年1月には工業資源の総合利用推進策が政府8部門共同で出され、電池サプライチェーンの上流から下流まで協働して回収・リサイクルに取り組むこと、三大地域(北京・天津・河北、上海・江蘇・浙江、広東・香港・マカオ)を中心に実証プロジェクトを展開すること、電池の測定や解体、金属回収などの国家基準を制定することなどが盛り込まれている。
使用済み電池のリユース・リサイクルで技術や経営が一定水準の企業はリストで公表されており、18年9月公表の第1陣5社はリーディング企業と目されている。21年には1月に第2陣22社、12月には第3陣20社が公表された。第1陣で選ばれたリサイクル大手・格林美(GEM)はNEVメーカー大手の比亜迪(BYD)と提携しているほか、邦普循環(Brunp Recycling)には電池メーカー最大手・寧徳時代(CATL)が出資、豪鵬科技(Highpower Technology)には厦門タングステン(厦門鎢業)が出資するなど、サプライチェーンを横断して協業が広がっている。
さらに、最近の動向で注目されるのが、電池交換式モデルの勃興である。EV車載電池の課題は、充電時間が数時間に及ぶこと、電池のコストが高く、EVの車両価格の3~4割を占めることが指摘されている。電池交換であれば、満充電された電池の交換時間は数分で済み、電池をリース価格で利用することで車両価格の低減が図れる。さらに、電池交換ステーションを運営することで、電池の品質やトレーサビリティなど、リユース・リサイクルの管理がしやすくなる。
CATLは22年1月、EVの電池交換サービス事業「EVOGO」を発表した。「巧克力(チョコレート)換電塊」と呼ばれる電池を車両に搭載し、交換ステーションでの電池交換は1分で済み、200km走行できる。トラックやタクシーなど商用車の車両運営事業者と提携して、電池リース形式での事業展開を目論んでいる。
電池交換ステーションの展開では蔚来汽車(NIO)や奥動新能源(Aulton)が先行している。交換ステーションは21年10月、中国全国で1,000ヵ所超あり、NIOは12月に目標の700ヵ所を達成している。NIOは送配電大手・国電網やShellなどと提携し、25年の目標を中国国内外で4,000ヵ所と掲げているほか、電池リース事業でCATLとも協業している。ソフトバンクグループも出資するAultonは中国石化(Sinopec)や上海汽車、第一汽車と提携し、25年1万ヵ所を計画している。
中国政府も21年10月にNEV電池交換の試行プロジェクトを発表し、後押ししている。NEVや電池の有力メーカー、リサイクル業者が拠点とする北京や江蘇・南京、湖北・武漢、吉林・長春、安徽・合肥など11都市をモデル都市に選定し、電池交換に対応した車両の開発や電池交換ステーションの整備を図る。21年11月にはEV電池交換安全基準が施行されるなど、技術標準類も整備されつつある。
EV・電池大国の中国で、リユース・リサイクルを視野に入れた電池交換式のビジネスモデルが標準化されていくのか、注目される。
25年の世界の蓄電池生産能力は中国が754GWh、欧州が726GWhと2大エリアとなり、日本は39GWh、米国は205GWhと見込まれている。CATLや孚能科技、蜂巣能源(SVOLT)、国軒高科など中国の電池メーカーは、ドイツ自動車メーカーとも連携しながら欧州で電池工場を建設し、VWやBMWも中国でEVや電池生産を拡大している。また、BASFは電池材料やリサイクルで、CATLやSVOLTとの戦略的提携を発表している。ShellとBYDは、中国と欧州で相互の充電ネットワークを活用する。日本では、パナソニックが中国で電池リサイクルは広東光華科技と、電池交換ではAultonと提携すると報道された(日本経済新聞:22年3月15日)。
電池関連ビジネスは、欧州と中国の動向から目が離せない。
この記事の初出は (株) 旭リサーチセンター Watchingリポートに掲載されたものです。
この記事は (株) 旭リサーチセンターの 長谷川雅史 が執筆したものです。
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