ポリブチレンテレフタレート(PBT)とは

ポリブチレンテレフタレート(PBT)の特徴や活用分野などをご紹介します。

図3 PBT用途例:車載コントロールユニット コネクタ部

1.ポリブチレンテレフタレート(PBT)とは

ポリブチレンテレフタレート(PBT)とは、結晶性の汎用エンジニアリングプラスチックです。テレフタル酸と1,4-ブタンジオールを原料とした、ポリエステルの一種です。電気特性、耐薬品性、成形加工性等に優れ、電気電子、自動車、フィルム向けの押出成形等、幅広い用途に適用されています。一方、エステル結合に由来した性質として、強アルカリには影響を受けやすく、高温高湿環境下においては加水分解を起こすことがあります。

エステルは下式に示すように、アルコールと有機酸を反応させることで作ることが出来ます。化学式ではRCOOR’で示されます。

図1. エステル化の化学式図1. エステル化の化学式

プラスチックは、鎖状高分子です。長鎖エステルを得るには、原料に2価のアルコールと2価の有機酸を用います。次式のようにエステル結合が次々起き、鎖状になります。

図2. 鎖状ポリエステルの化学式図2. 鎖状ポリエステルの化学式

ポリエステルの実用化研究は脂肪族ポリエステルで合成繊維を目指して始まりました。しかし、繊維の要件である「アイロン温度」をクリアできず実用化されませんでした。
しばらくして、芳香環の導入によって耐熱性を向上させるアイデアが実り、繊維で使われるようになりました。これがポリエチレンテレフタレート(PET)です。PETはテレフタル酸とエチレングリコールを原料としています。PETは合成繊維、フィルム、ボトルなどに広く使われています。
PETは成形材料にも使われていますが、結晶化しにくいため成形が簡単ではありませんでした。効率よく高性能の成形品を得るためには結晶を促進させる必要があり、成形材料用PETには結晶促進剤が添加されています。
PETのエチレン基(C2)をブチレン(C4)にしたポリブチレンテレフタレート(PBT)では結晶核剤を使わなくても結晶化しやすいことが分かりました。このため特に射出成形材料としてはPBTが多く使われるようになりました。PBTはテレフタル酸と1,4-ブタンジオールを原料としています。

2.PBTの特徴

PBTはエステル結合と芳香環を持っており、電気特性、耐薬品性に優れています。ガラス繊維等のフィラーを添加することで、機械特性、耐熱性を向上させて用いることが多いです。

  • 機械特性として、強さ、靭性に優れる
  • ガラス繊維等のフィラー強化により、剛性・強度、荷重たわみ温度が向上する
  • 吸水率が小さい
  • 電気特性に優れる。
  • 耐薬品性(有機溶剤、弱酸、弱アルカリ等)に優れる
  • 吸水しにくいことから寸法変化が小さい

用途に応じ、フィラー強化、難燃、耐衝撃性、各種安定剤添加、ハイサイクルグレードなどが準備されています。
エステル結合は水分の存在下で長時間高温にさらされると加水分解します。また、耐薬品性では強酸・強アルカリ性溶液にはあまり強くありません。このような用途で使うときは慎重な検討が求められます。

3.用途

これまで述べてきたような特徴を活かし、電気電子部品、自動車電装部品フィルム向けの押出成形等に広く使われています。

図3 PBT用途例:車載コントロールユニット コネクタ部図3 PBT用途例:車載コントロールユニット コネクタ部

図4 PBT用途例:スイッチハウジング図4 PBT用途例:スイッチハウジング

4.成形法

PBTは成形中に残存水分で加水分解をします。このため、成形材料の水分を0.03%以下にする必要があります。このため高温、長時間(130℃で3時間以上)乾燥する必要があります。多くの場合真空乾燥機、吸湿型乾燥機使われています。
PBTは結晶性で、融点が230℃なので射出成形の場合、シリンダ温度を樹脂温度240~250℃程度に設定します。
また、十分結晶化させ、本来の性能を発揮させるためには金型温度を40℃以上にする必要があります。また、結晶性なので保圧を十分かけ、ヒケ、ソリを抑制することが求められます。

5.PBTとポリアミド66との比較

耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性等が求められる用途に広く使われている結晶性エンジニアリングプラスチックに、PBTとポリアミド66(PA66)があります。それぞれ特徴を活かして使い分けられています。これらをまとめて表1に示しました。

表1 PBTとPA66との比較工業調査会: プラスチック・データブック P520、旭化成刊: レオナハンドブック P3,4 等より佐藤功作成表1 PBTとPA66との比較工業調査会:
プラスチック・データブック P520、
旭化成刊: レオナハンドブック P3,4 等より佐藤功作成

PBTの用途

既述のように耐熱性・電気特性に優れるため、電機電子部品等に広く使われます。

PA66の用途

フィラー強化効果による機械特性や耐熱性がより優れるため、耐熱性・強度が求められる電機電子部品の他、自動車構造部品等にも使われます。また、摺動性にも優れることから、耐熱性が求められる摺動部品にも用いられます。

両材料は似た性質を持っており、各メーカーは上記長所を強化あるいは短所を補った材料開発を行っています。よって、その使い分けはケースバイケースで異なることがあります。

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6.地球温暖化とPBT

PBTの原料、テレフタル酸、1,4-ブタンジオールではバイオ化の検討が進んでいます。また、ポリエステルは簡単な処理で高分子化が可能なので、汚染、夾雑物の少ない廃材を収集できるシステムが構築できれば高性能なリサイクルが得られる可能性も高いです。

コラム:様々なポリエステル

最初に説明したように、ポリエステルは2価のアルコールと2価の有機酸を結合させて得られます。酸、アルコールの組み合わせを変えることで様々な材料を作ることが出来ます。概要を表2に示しました。
PBTは芳香環を持った酸と脂肪族のアルコールから合成され、半芳香族ポリエステルに属します。芳香環を持っているため耐熱性、電気特性が優れています。繊維、フィルム、ボトルなどに使われているPETもこのグループに属します。
ポリエステルは熱可塑性エラストマーにも活用されます。熱可塑性エラストマーは分子内に変形しやすいソフトセグメントと変形しにくいハードセグメントのブロック共重合体です。ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC、ポリエステル系熱可塑性エラストマー)では、ハードセグメントに芳香族ポリエステル(主にPBT)を、ソフトセグメントにポリエーテル(主にPTMG)が用いられることが多く、耐熱性に優れています。
酸、アルコールとも脂肪族のものでは生分解性を持った、ポリ乳酸(PLA)が代表的な樹脂であり、地球環境配慮材料として注目されています。
酸、アルコールとも芳香族にしたポリエステルには液晶性を示すものがあります。液晶性ポリエステル(LCP、液晶ポリマー)は耐熱性が極めて高くなります。融点が分解開始温度に近づくため、成形が難しいですが耐熱高性能材料や繊維として使われています。
分子鎖内に二重結合を持ったポリエステルは「不飽和ポリエステル」と言われ、二重結合を利用して分子鎖間で架橋させることが出来、熱硬化性プラスチックとして建材、船舶など大型成形品に広く使われています。

表2 様々なポリエステル表2 様々なポリエステル

以下文献等を基に佐藤功作成
ポリエステル(POLYESTERS)とは – 樹脂プラスチック材料環境協会(jushiplastic.com)
飽和ポリエステル樹脂ハンドブック, 湯木和男/編–日刊工業新聞社–
ポリエステル樹脂ハンドブック, 滝山栄一郎/著–日刊工業新聞社–
脂肪族ポリエステルの構造と生分解性, 望月政嗣/著–繊維と工業、繊維学会–

(執筆:佐藤功、佐藤功技術事務所)

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