サステナビリティの基礎知識

第1回 マスバランス方式とは

マスバランス方式の考え方、身近な例、メリットなどをご紹介します。

マスバランスとは

マスバランス方式とは

マスバランス方式(マスバランスアプローチ)とは、「原料から製品への加工・流通工程において、ある特性を持った原料(例:バイオマス由来原料や再生プラスチック由来原料)がそうでない原料(例:石油由来原料)と混合される場合に、その特性を持った原料の投入量に応じて、製品の一部に対してその特性の割り当てを行う手法」*です。

*出典:バイオプラスチック導入ロードマップ -持続可能なプラスチックの利用に向けて-(環境省、経済産業省、農林水産省、文部科学省)(令和3年1月)

マスバランス方式は物質収支方式とも言われ、インプットとして投入する原料とアウトプットとして製造される製品のバランスを管理し、正確性を担保する仕組みです。例えば、バイオマス由来原料4トン、石油由来原料8トンを投入・混ぜ合わせた原料から12トンの製品を生産したとします。配合比率だけで見ると、バイオマス由来成分33%(製品中の1/3)の製品が12トン生産されています。ここにマスバランス方式を適用すると、生産された12トンの製品の内、4トンをバイオマス原料由来100%の製品として、残りの8トンを石油由来のプラスチックとして「割り当て」ることができます。

マスバランス方式説明図マスバランス方式説明図

参考:セグリゲーション方式
セグリゲーション方式とは、別名分別管理方式とも言われ、インプットで投入された原料が、アウトプットの製品にそのまま使われている、いわゆる従来通りの方式です。上の例で言えば、バイオマス由来成分33%(製品中の1/3)の製品として生産した12トンを、バイオマス由来成分33%の製品12トンとしてそのまま販売する方式です。

このように、バイオマス由来原料と石油由来原料が製造時に共に投入・混ぜ合わされた場合であっても、マスバランス方式を適用すれば、投入したバイオマス由来原料の量に合わせた製品分をバイオマス原料由来と見なすことができます。

なお、マスバランス方式は、ISO 22095:2020(en) Chain of custody — General terminology and models においてマスバランスモデルと呼ばれます。マスバランス方式は、Chain of custodyと呼ばれる原料から製品までの加工・流通のサプライチェーンの管理連鎖モデルの中の1つです。

マスバランス方式の身近な例

マスバランス方式は、既に多くの業界で浸透しています。

身近な例ですと、紙・パルプ産業におけるFSC認証、パームオイルのRSPO認証、カカオ豆等のフェアトレード認証など、広く活用されています。

例えば、パームオイルの場合だと、インプット・原料としてのRSPO認証農園の認証パームオイルが非認証パームオイルと流通工程において混合されてしまっても、インプットの認証パームオイルの量とアウトプットとしての製品量がバランスすることで、市場全体における認証パームオイルの収支が管理されています。消費者からRSPO認証パームオイル製品が選択されることで市場全体としてRSPO認証パームオイルの需要が増えれば、RSPO認証を受けた農園が増え、サプライチェーン全体として持続可能な姿に近づいていきます。

マスバランス方式のメリット

これまでのバイオマスプラスチックでは、専用の生産設備・専用の原料が必要かつ製品への適用が限定的であり、その普及に時間がかかってきました。カーボンニュートラル社会実現に向けて、プラスチック製品においてもマスバランス方式の適用により、使われる原料を徐々に持続可能な資源に置き換えていくことが期待されています。

プラスチックに対してもマスバランス方式を適用させる、主なメリットは以下の通りです。

  • 環境負荷の低減:バイオマス由来原料の使用を促進することにより、化石資源の消費を減らすことができます。また、バイオマスは成長過程において大気中のCO2を固定し、バイオマスを再生産する限りにおいてはバイオマスを焼却しても大気中のCO2は増加しないことから、CO2輩出削減に貢献します*。また、バイオマス由来原料だけでなく、廃棄物由来の資源投入も可能なスキームです。

    *出典:プラスチック資源循環(環境省)

  • 従来の設備・プロセス活用:投入原料にバイオマス由来原料が混ざる以外に製造プロセスの変更はないため、これまでの設備・プロセスと同一のものをそのままの条件で使用できます。そのため、製造された製品の物性等も従来品と同等になります。一方、セグリゲーション方式(分別管理方式)では、石油由来原料とバイオマス由来原料を完全に分離するために、生産設備を分けたり、一度生産を止めて設備を清掃したりと、より手間がかかる傾向があります。
  • 幅広い製品へ適用可能:これまでバイオマス化が難しかった原料(様々なプロセスを経て製造される誘導品等)であっても、例えば一番の大本であるナフサにマスバランス方式を適用することで、バイオマス化が可能になります。

マスバランス方式の課題

一方で、以下のような課題も挙げられています。

  • トレーサビリティと信頼性:バイオマス由来原料が間違いなく投入されているか、製造された製品の割り当ては正しく行われているか等、サプライチェーン全体で信頼性を築くことが不可欠です。信頼性を担保するために、ISCC、REDcert、RSBといった外部国際認証機関による監査と認証取得が望ましいです。
  • 認知:比較的新しい考え方であるため、消費者・事業者への啓蒙活動が求められます。これまでのバイオマスプラスチック製品に関する認証では、実際に製品に含有されるバイオマス由来原料の割合に基づきバイオマス比率が表示されていましたが、マスバランス方式におけるバイオマス比率は「割り当て」であり、概念が異なります。今後、表示・表現のあり方、位置づけを整備・発信していく必要があります。(参考:セグリゲーション方式(分別管理方式)では、従来通り製品に含有されるバイオマス比率と表示比率の概念が一致しています。)
  • 経済性:マスバランス方式によりバイオマス由来原料を適用させやすくなったとは言え、多くのバイオマス由来原料は石油由来原料と比べると、まだまだ高価格なのが実態です。徐々にバイオマス由来製品が浸透することで、バイオマス由来原料が増産され、より手に届きやすい価格で製品を提供できるようになることが求められています。

マスバランス方式によるバイオマス由来原料を使用した旭化成の樹脂材料(ISCC PLUS認証取得)

旭化成のエンジニアリングプラスチック製品では、ISCC PLUS認証*を取得したマスバランス方式の製品の販売を行っています。

マスバランス方式によるバイオマスPPE

変性PPE樹脂ザイロン™では、マスバランス方式によるバイオマス由来のメタノール/フェノールを原料とするPPEとして、ISCC PLUS認証を取得しました。バイオマス認証PPEは、既存の石化由来のPPEと同等の性能(耐熱性・難燃性・軽量・絶縁性・寸法安定性・低吸水性など)を保持しているため、幅広い用途でのサステナビリティ対応に貢献することができます。

マスバランス方式によるバイオマスPOM

POM樹脂テナック™は、マスバランス方式によるバイオマス由来のメタノールを原料とするPOMとして、ISCC PLUS認証を取得しました。
POM樹脂テナック™ バイオマス認証グレードは、既存の石化由来のPOMと同等の性能(優れた摩擦・摩耗特性、強度・剛性、耐油・耐有機溶剤性など)を保持しているため、幅広い用途でのサステナビリティ対応に貢献することができます。

*ISCC(International Sustainability and Carbon Certification):持続可能性および炭素に関する国際認証であり、ISCC PLUSはEU域外で生産され全世界に販売される主にバイオベースや再生由来等の原料について、サプライチェーン上で管理・担保する認証制度です。

ご興味のある方はぜひ一度お問い合わせください。

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