IOWNの時代がAPNからはじまる

2023.07.07

IOWNの時代がAPNからはじまる

業界コラム

NTTの光ベースの革新的なネットワーク・情報処理基盤IOWN構想とは

光ベースの革新的なネットワーク・情報処理基盤IOWN(Innovative Optical and Wireless Network:アイオン)構想は、2019年5月にNTTが提唱した。IOWN構想は三つの要素から構成される。すなわち、ネットワークから端末まですべてにフォトニクスベースの技術を導入する「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」、あらゆるものをつなぎその制御を実現する「コグニティブ・ファウンデーション(CF)」、実世界を表す多くのデジタル情報を掛け合わせ、モノやヒトの相互作用をサイバー空間上で再現・試行可能とする新たな計算パラダイム「デジタルツインコンピューティング(DTC)」である。IOWNは新時代のネットワークと情報処理基盤を提供する構想で、30年の実現を目指して研究開発が進められているが、APNの一部は特性目標を達成しサービス提供の段階にきている。

APNが実現するネットワーク性能とは

APNは光ファイバから伝送装置・半導体、さらにはネットワーク端末までに「フォトニックベースの技術」を積極的に導入した、革新的ネットワークである。従来の電子技術ベースの通信ネットワークと比較して、電力効率を100倍、伝送容量を125倍、通信を行う二者を結ぶ経路全体、もしくはその両端の遅延を200分の1にする性能を目標とする(図1)。光信号のままで伝送・交換処理を行うAPNで、従来のインターネットが抱える課題を一気に解決する。この実現に向けての最大の課題は、光電融合デバイスの開発である。NTTは25年度に半導体ボード(基板)間で、29年度にはチップ間の通信路で、30年度以降はチップ内での光化を目指す。この実現でようやく電力効率100倍が実現できる。

図1:APN目標性能 (出典:NTT資料よりARC作成)図1:APN目標性能 (出典:NTT資料よりARC作成)

IOWN構想の実現は低遅延からはじまる

23年3月16日、NTT東日本、NTT西日本は、NTTが進めるIOWN構想のAPN技術を用いた、「APN IOWN 1.0」の商用サービスを開始した。本サービスで、低遅延の目標を実現させる。具体的には通信ネットワークの全ての区間で光波長を専有する高速・大容量(100Gbps保証)専用線サービスを、NTT東日本、NTT西日本が、法人向けに提供する(図2)。また、遅延ゆらぎに強いOUT4プロトコルを採用し、遅延量を大幅に削減した。あわせてネットワークの両端に設置する専用のAPN端末装置「OTN Anywhere」を販売し、これを用いて遅延の測定と1μsec単位の調整を行うことで、複数拠点間の異なる遅延を均質化し、ゆらぎのない安定した通信を実現する。「APN IOWN 1.0」は同一県内の法人向けに、月額198万円(APN端末装置は645.7万円~/台)で提供される。

利用シーンとしては、リアルタイム性が要求される遠隔合奏や遠隔レッスン、eスポーツ分野、スマート工場や実験計測機など機器の遠隔操作、データセンター間の緊密な連携などへの活用が期待される。

図2:サービスイメージ (出典:NTT東日本)図2:サービスイメージ  (出典:NTT東日本)

光ネットワーク技術の標準化に向けNTTとKDDIが技術協力

23年3月17日、NTTとKDDIは光伝送技術やモバイルネットワーク技術、その運用管理技術など、光ネットワーク分野の標準化に向けての技術協力を発表した。
Beyond 5G/6G時代の課題解決に向け、持続可能な大容量光ネットワークの実現をめざす。光ネットワークの研究・開発はオープン・イノベーションで検討を加速し、世界に革新的通信技術を広めるとともに、標準化に取り組む。合意した内容は(1)高速化と高品質化を両立するAPN伝送方式の標準化(2)モバイル通信におけるAPNの標準化(3)オーケストレーション技術の標準化である。オーケストレーション技術とは、複数の光ネットワークを協調して監視制御し、高い信頼性を実現する技術である。
ファーウエイは先日のMWC Barcelona 2023でオール光ネットワーク関連の新ソリューションを発表した。ブロードバンド向けで業界初となる商用50G PON(Passive Optical Network)である FTTR OptiXstar F30など、光ネットワーク関連の開発は進んでいる。NTTとKDDIには強力に標準化を進めてほしい。

日本のAPN技術がゲームチェンジャーとなれるか、動向に注目する。

 

この記事の初出は (株) 旭リサーチセンター Watchingリポート に掲載されたものです。
この記事は (株) 旭リサーチセンターの 成田誠 が執筆したものです。

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