技術・製品紹介
2022.03.02
業界コラム
2021年10月19日、ソフトバンクは、スタンドアローン(SA)方式による5Gの商用サービスを国内で初めて開始した。従来の4Gコア設備と5G設備を組み合わせたシステム構成のノンスタンドアローン(NSA)方式とは異なり、5G専用コア設備と5G基地局を組み合わせた最先端の技術方式のサービスである。これにより、5Gの特長である同一ネットワークでの高速・大容量、低遅延、多数同時接続の機能に加え、ネットワークスライシングや企業のニーズに合わせてカスタマイズしたプライベート5Gなど、高度な技術ベースの通信が提供可能となった。
高速・大容量の実現に重要なミリ波(28GHz帯)は、減衰が大きく、直進性が強いため障害物の影響を受けやすく、本格運用を迎える5Gにとって通信範囲が狭くなるとの課題がある。そこで、見通しが利かない場所に電波を届けるためにメタサーフェス(※1)技術を使ったソリューションが開発されている(図.1)。
(※1)メタサーフェス:波長に対して小さい構造体を2次元に周期配置して任意の誘電率・透磁率を実現するメタマテリアルの一種
図.1:メタサーフェス技術適用事例、出典:https://www.j-display.com/news/2021/20211007.html
21年10月7日、ジャパンディスプレイとKDDIは、通常はディスプレイなどの光制御に使われている液晶を応用し、電波の反射方向を任意な方向に変えられる、28GHz帯液晶メタサーフェス反射板(以下、「方向可変型液晶メタサーフェス反射板」)を開発した。反射素子とグランド(地板)との間に液晶層を取り入れ、反射素子を電極として兼用し、電圧により誘電率を変えることで、電気的な反射方向制御を実現した。両社は電波無響室で実証実験を行い、方向可変型液晶メタサーフェス反射板の液晶に与える電圧に傾斜を持たせることで、入射した電波の反射方向を任意に変更できることを確認した。
21年11月12日、NTTとNTTドコモは電波を反射する特性を持つメタサーフェス反射板を用いて、ユーザーの動きに追従して5G基地局からの電波の伝搬方向を動的に変えることに成功した。AGCが開発した低損失基板に位相制御が可能な設計を適用したメタサーフェス反射板である、「RIS(Reconfigurable Intelligent Surface)反射板」は、非常に微細な周期構造の人工表面を付与した構造を持つ。電気的に反射角度を制御することで、電波の反射方向を任意に切替可能とした。
具体的には、ユーザーに相当する移動可能な5G受信機の位置情報などを、情報収集用のサーバーに送信する。サーバー側では、受信機の位置を推定し、その結果を「RIS反射板」の制御装置に送る。ユーザーの位置に応じて適切な反射角になるように、「RIS反射板」を制御する。今回の実験では、電波の反射方向を動的に制御することで、受信電力を最大20dBほど改善できた。
21年1月26日、NTTドコモとAGCはメタサーフェス技術により28GHz帯の電波を屋外から屋内に効率的に誘導する「メタサーフェスレンズ」のプロトタイプの開発に成功した。屋外基地局アンテナから発信されたミリ波帯の電波は、ガラスを通ることで大きく減衰する。さらに、断熱性や遮熱性を高める目的で、窓ガラスにコーティングしている金属膜が電波を跳ね返すため、建物内の5Gエリア化は非常に困難であった。新たに開発されたメタサーフェスレンズは、メタサーフェス基板上に複数の形状を持つ小さな素子を適切に配置することで、窓ガラスを通るミリ波を室内の所定の焦点位置に集め、受信電力を高めることができる。焦点位置にリピーターやリフレクターなどのエリア改善ツールを置くことで、室外の基地局アンテナによる建物のエリア化が実現できる。また、フィルム形状のため、屋内側から窓ガラスに張り付け、屋外基地局アンテナからの電波を屋内に簡単に引き込むことも可能になる。
メタサーフェス技術が5Gのミリ波エリア拡大の課題を解決しそうだ。
この記事の初出は (株) 旭リサーチセンター Watchingリポートに掲載されたものです。
この記事は (株) 旭リサーチセンターの 成田誠 が執筆したものです。
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