プレスリリース
2022.11.30
業界コラム
フィンランドの石油化学大手であるNesteは植物油廃棄物や残渣油からバイオナフサを生産しており、このバイオナフサを化学企業が調達し、クラッキングなど、従来のプロセスで製造した各基礎化学原料の出荷が始まっている。
三井化学は2021年にNesteから調達したバイオナフサを原料に製造したフェノールを22年2月に出荷したのを皮切りに、22年3月には子会社であるプライムポリマーからバイオマスポリプロピレンが商業生産され、出荷された。
さらに、三井化学は22年8月にバイオナフサから製造したバイオフェノールとバイオアセトンからポリカーボネート樹脂(PC)の原料であるビスフェノールA(BPA)もバイオマスBPAとして生産を開始すると発表した。バイオマスBPAから帝人がバイオマスPCの生産を開始する。また、Covestro(独)は22年2月に三井化学及び三井物産と、これらバイオフェノールとバイオアセトンの供給を受けることで合意しており、バイオマスPCの普及が加速すると思われる。
また、三井化学は、原料調達面でもバイオマス化学品・プラスチックの原料となる廃食用油で東南アジア・中国地域最大級の集荷・販売会社であるApeiron AgroCommodities(シンガポール)へ、22年6月に出資し、バイオマス原料の調達拡大を目指している。
バイオナフサのクラッキングによる製法ルートでは、炭化水素系の各種基礎化学原料が得られ、そこから誘導できる製品はバイオ化学品として展開できるため非常に有用である反面、クラッキングで得られる基礎化学原料群の各生産収率に一定の範囲があり、各用途・需要に合わせて供給量のバランスをとるには限界がある。
フェノールに関しては、住友ベークライトが木質系廃材から得られるリグニンを誘導体として用いた変性フェノール樹脂を展開しており、さらに同廃材等から得られるセルロースも糖化、発酵、抽出によりフェノールに転換するプロセスを開発中である。
また、ナイロン原料をバイオマスから得る動きも活発化している。
22年8月、東レは植物の非可食成分から得た糖を原料とし、ナイロン66樹脂の原料となる、100%バイオアジピン酸を世界で初めて開発したと発表した。非可食バイオマス由来の糖を原料としたアジピン酸中間体を微生物の発見と微生物内の代謝経路の効率化に成功したものである。これは国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)との共同研究によるもので、東レは自社の微生物発酵技術と分離膜技術を活用した精製技術を組み合わせ、スケールアップの検討を開始するとともに、30年近傍までの実用化を目指す。
ナイロン66樹脂のもう一方の原料であるヘキサメチレンジアミン(HMD)はGenomatica(米)がバイオ原料をベースに開発中であり、22年2月に旭化成は同社とバイオベースHMDに関する戦略パートナーシップの合意をしている。
また、Genomaticaは22年7月、植物ベースのナイロン6原料であるカプロラクタムを数トン生産し、重合で得たナイロン6を、現在、ヨーロッパで行われている実証生産から一部商業用として、繊維やカーペット、エンジニアリングプラスチックなどのナイロン用途での評価を行うと発表した。
今後、化学工業界では、バイオマスを利用した基礎化学原料の開発と商業化がさらに進み、それをベースとした汎用及びエンジニアリングプラスチックの社会実装が加速すると考えられる。
図:ナイロン(6、66)及び PC の原料フロー 石化法とバイオ法の比較 [ARC まとめ]
この記事の初出は (株) 旭リサーチセンター Watchingリポートに掲載されたものです。
この記事は (株) 旭リサーチセンターの 下田晃義 が執筆したものです。
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