電子機器の熱マネジメントに貢献する樹脂材料
電機・電子部品

電子機器の熱対策・熱設計に貢献する樹脂材料

電子機器の熱対策・熱設計の重要性

電子機器の熱対策・熱設計は、その性能と寿命を左右する重要な要素です。近年、デバイスが次第に高機能・小型化する一方で、発熱量が増加し、効率的な冷却技術が求められています。

このため、情報通信用の基地局、太陽光発電用PCS(パワコン)、サーバ、インバーター、モーターなど、幅広い分野/部品の熱対策・熱設計が大きな技術課題の一つとなっています。特に最近では、人工知能やIoTの普及により、高密度で動作するコンポーネントが多数稼働するようになってきているため、熱問題はますます深刻化しています。 

このように熱対策・熱設計は、電子機器の信頼性向上に直結する重要な技術分野です。 

旭化成は、エンプラ発泡材料「サンフォース®」、変性PPE樹脂「ザイロン™」を活用した電子機器の熱対策・熱設計をご提案します。

電子機器の熱対策・熱設計に貢献する
エンプラ発泡材料
サンフォース

サンフォース®とは

サンフォース®は、変性PPE樹脂「ザイロン™」を発泡させたビーズ発泡体で、変性PPE由来の耐熱性、寸法安定性や低い吸水率、ビーズ発泡体由来の軽量、高い賦形性(形状自由度)という特徴を併せ持つ発泡体です。

さらに、難燃性や耐熱性を併せ持つことで発泡体ながらもUL94規格 V-0を達成しています。

また、型内発泡成形で成形するため、量産性にも優れています。

サンフォース®とは

さらに、サンフォース®は独立気泡構造を有する発泡体であるため高い断熱性を有しています。

 

素材名 熱伝導率(W/m・K) 素材名 熱伝導率(W/m・K) 素材名 熱伝導率(W/m・K)
カーボンナノチューブ 5500 LCP(液晶ポリマー) 0.56 サンフォース®5倍 0.041
ダイヤモンド 2000 FRP(繊維強化プラスチック) 0.26 セルロースファイバー 0.040
370 PPS(ポリフェニレンサルファイド) 0.26 ロックウール 0.038
アルミニウム 200 ポリカーボネート​ 0.19 サンフォース®7倍 0.038
グラファイト 120 ABS 0.19 グラスウール32K 0.036
80 ポリ塩化ビニル 0.17 メラミン発泡体 0.035
炭素銅 41 合板​ 0.16 サンフォース®10倍 0.034
アルミナ 32 パーティクルボード​ 0.15 押出ポリスチレンフォーム(3種) 0.028
ステンレス 16 変性PPE 0.15 硬質ウレタンフォーム(1種1号) 0.024
カーボン繊維強化プラスチック 4.7 ポリスチレン​ 0.15 空気 0.022
ジルコニア 3.0 ひのき​ 0.095 シリカエアロゲル 0.017
コンクリート 1.6 すぎ​ 0.087 二酸化炭素 0.015
硝子 1.0 コルク​ 0.043 真空断熱材 0.002
0.58
サンフォース®の断熱性(さまざまな素材との比較、常温での参考値)

 

以下では、サンフォース®の特性を生かした電子機器向けの熱対策・熱設計を目的とした活用提案をご紹介します。

電子機器の熱対策・熱設計 
活用提案①:薄肉・複雑形状の断熱材

サンフォース®は、材料由来の高い耐熱性や難燃性(UL94規格 V-0認定取得)に加え、小粒径のビーズを原料として型内発泡で成形するため、薄肉・複雑形状の断熱材の量産に適しています。このため、複雑な部品の形状に合う断熱材を量産することができます。

 

発泡体種 サンフォース® EPS
(発泡スチロール)
EPP
(発泡ポリプロピレン)
ウレタン発泡シート
成形方法 型内発泡 型内発泡 型内発泡 押出発泡
形状自由度 ×
薄肉成形 × × ×

耐熱性
(荷重たわみ温度)

×
難燃性 UL94 V-0 可燃性 可燃性 可燃性
他の汎用的な発泡体とサンフォース®の比較

 

複雑な部品へ断熱材を適用する場合、一般的にはグラスウールやウレタン系発泡体を作業員が手貼りする場合が多いですが、サンフォース®を用いることで高い断熱性による熱対策・熱設計の向上に加えて、結露防止、部品点数の削減(工数・コスト削減)、組みつけ時の生産性の向上・組みつけ精度の向上(製品の品質安定)に貢献します

エンジンオイルセパレータ向け断熱材の形状例
エンジンオイルセパレータ向け断熱材の形状例

このような特性を利用して、高性能且つ高い安全性が要求される、自動車向け冷却部品、5G/6G通信機器や太陽電池用パワーコンディショナーの冷却部品、データセンター・AIサーバー向け水冷部品、エンジンオイルセパレータ、空調用ダクトなど、幅広い分野への適用が可能です。

電子機器の熱対策・熱設計 活用提案②:高温高湿環境下の断熱材

サンフォース®は、洗濯乾燥機のような高温高湿環境の熱マネジメントにも適しています

ドラム式洗濯乾燥機への適用例
ドラム式洗濯乾燥機への適用例

ドラム式洗濯乾燥機への適用のシミュレーションにおいては、下図の通り、高い断熱性で乾燥運転時の槽内温度を保ち、エネルギーロスを低減できることが分かりました。

乾燥機環境を想定したCAE熱解析―サンフォース®断熱材による省エネ効果
乾燥機環境を想定したCAE熱解析―サンフォース®断熱材による省エネ効果

サンフォース®は、高温高湿環境下においても安定した機械強度・寸法安定性があり、高機能な断熱材を量産することができます。さらに、高い難燃性 (UL94 V-0)で、家電や電子機器の電気接続点周辺への配置にも適しています。

電子機器の熱対策・熱設計 
活用提案③:サンフォース®を用いた遮熱材

発熱量の大きい部品が搭載された電子基板(太陽光発電用PCSを想定)に対する遮熱材への活用事例をご紹介します。

サンフォース®は高い断熱性、高い形状自由度、難燃性、耐熱性を有しており、この特性を活かして電子基板の発熱部/非発熱部の遮熱材として使うことができます。

現行モデルと、非発熱部をサンフォース®で遮熱した提案モデル
現行モデルと、非発熱部をサンフォース®で遮熱した提案モデル

以下のシミュレーションは、発熱が大きい部品を発熱部、発熱が小さい部品を非発熱部と定義し、サンフォース®により発熱部を遮熱した際の筐体内気の温度変化を計算した結果です。これにより、筐体内気の温度低減が可能であることが分かりました。

サンフォース®(BE、10倍、10mmt)適用時の温度解析結果
サンフォース®(BE、10倍、10mmt)適用時の温度解析結果

このようにサンフォース®を遮熱材として用いることで、電子機器の小型化・温度低減・劣化抑制・部品配置の自由度向上などが可能です。

電子機器の熱対策・熱設計 
活用提案④:サンフォース®による断熱ダクト

前記の遮熱材と同様に、サンフォース®の特徴を活かした電子部品板の熱対策のための使い方として、発熱量の大きい部品が搭載された電子基板に対する断熱ダクトへの活用事例をご紹介します。

電子機器内部においては、電子部品の温度差によって対流が発生しますが、部品配置や温度分布等によって空気のよどみが発生し、狙った冷却能力が出せず部品温度が上昇してしまうことがあります。

電子機器内で発生する空気のよどみのイメージ
電子機器内で発生する空気のよどみのイメージ

空気のよどみは、下図の左側のような、内部に冷却ファンが搭載された太陽電池用のPCSユニットで発生します。この問題を解消するため、下図の右側で示すように、ファンユニット周辺にサンフォース®断熱ダクトを適用した検討例を示します。

現行モデルと、サンフォース®断熱ダクトを適用したモデルの概略図
現行モデルと、サンフォース®断熱ダクトを適用したモデルの概略図

まず、下図の通り、電子機器内部の気流の解析結果を示します。サンフォース®断熱ダクトを適用したモデルにおいては、空気の流路を形成することにより、特に発熱部品周辺において電子機器内部の気流を吸気~排気までスムーズにコントロールできていることが分かりました。

PCS内部の気流解析結果
PCS内部の気流解析結果

また、以下に温度の解析結果を示します。前記の通り気流をコントロールすることによって部品温度の低減が出来ました。

PCS内部の温度分布の解析結果
PCS内部の温度分布の解析結果

このように、サンフォース®を断熱ダクトとして用いることで、電子機器内部に気流制御による部品温度低減・劣化抑制・部品配置の自由度向上などが可能となります。

サーバの熱対策用 高速ファンモータ向け材料 xyron G703Z(開発材)

変性PPE樹脂 ザイロン™とは

旭化成の変性PPE樹脂 ザイロン™は、ポリフェニレンエーテル (PPE) と他樹脂を混合したポリマーアロイの総称です。

ザイロン™は、優れた複数の特性を有します。高い耐熱性を備えた上、難燃性と絶縁性、寸法安定性、耐水性にも優れ、なおかつ低比重といった特長があります。さらに、相手となる他樹脂の特長も生かしながらPPEを添加することによって、PPEの特長との相乗効果を狙ったポリマーアロイです。

ハロゲン・TPPフリーで高温時のファン風量を維持する ザイロン™ G703Z(開発材)

サーバの熱マネジメント用の高速ファンモータ向け材料として、ハロゲンフリーかつTPP*フリーで薄肉難燃性と高強度を両立させた変性PPE樹脂、ザイロン™ G703Zをご提案します。
* TPP: リン酸トリフェニル(Triphenyl phosphate)

PPE樹脂は、エンジニアリングプラスチックの中でも特に軽量で、ファンに発生する遠心力を低減します。これにより、ファンの高回転化が可能となり、風量・排熱量アップを可能にします。

高速ファン

また、ガラス転移温度が約220℃と耐熱性が高く、高温下でも優れた物性を保持し、ときに90℃に達することもある高性能サーバの環境温度上昇にも対応します。さらに、ザイロン™ G703Z(PS/PPEアロイ・GF30%)は、従来は難しかったハロゲンフリーかつTPPフリーで薄肉難燃性(UL94 V-0/0.75mm)を実現し、高速ファンモータに適した材料です。

下図のとおり、ザイロン™ G703Zは回転時のファン変形量に影響を及ぼす比弾性率の温度依存性が低いため、高温下でもファンの変形が少なく、安定した風量を維持します。

弾性率・比弾性率の温度依存性比較
弾性率・比弾性率の温度依存性比較

ファンモータ向けの材料検討のための実用性能評価について(モデルサンプル・耐久テスト)

旭化成では、モデルサンプル・ファンモータ耐久試験装置を製作し、材料の実用性能評価を実施しております。

市販のファンモータを3Dスキャンし、CADデータから射出成形用の金型を製作して、樹脂製のモデルサンプルを成形、材料の比較評価を実施しております。このモデルサンプルはオーブン内で温度制御することが可能なため、実際の使用環境に近い温度・回転数での耐久テストが実施できます。

ダウンロード資料では、耐久試験の詳細データをご紹介しておりますので、ぜひ併せてご確認ください。

ファンモータ耐久試験装置―サンプルと測定部
ファンモータ耐久試験装置―サンプルと測定部

その他の活用提案
「電機・電子部品」

旭化成 エンプラ総合情報サイト 旭化成のエンジニアリングプラスチック・機能樹脂製品をご紹介いたします。ポリアセタール(POM)樹脂、ポリアミド(PA, ナイロン)樹脂、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂を主に取り扱っており、樹脂の設計参考情報、事例、業界動向トレンド等をお届けします。 旭化成株式会社 旭化成 エンプラ総合情報サイト